ニュースリリース
免震建物に適用する「性能可変オイルダンパー」を開発 ~長周期地震動作用時における免震層の過大な水平変位を抑え、建物の擁壁への衝突を防ぐ~
株式会社奥村組(本社:大阪市阿倍野区、代表取締役社長:奥村太加典)は、国立大学法人東北大学、有限会社シズメテックと三者共同で、免震建物において長周期地震動※1の影響を受けた際(以下、長周期地震動作用時)に、免震層に生じる過大な水平変位を抑制し、建物が擁壁に衝突することを防ぐ「性能可変オイルダンパー(以下、VOD)」を開発しました。
※1 巨大地震で生じる可能性のある「周期(揺れが一往復するのにかかる時間)の長いゆっくりとした大きな揺れ」のこと。免震建物や高層ビルなどの固有周期(個々の建物の最も揺れやすい周期)はその他の建物の周期に比べると長いため、長周期の波と共振しやすく、共振すると長時間にわたり大きく揺れる。
まずは、既存免震建物である奥村組名古屋支店に設置されているダンパーをVODに取り替える(2024年8月予定)こととしており、 2024年1月に「奥村組名古屋支店に用いる性能可変オイルダンパー」として、一般財団法人日本建築センターから評定(BCJ評定-IB0041-01)を取得しました(特許出願中)。
【背景】
2003年の十勝沖地震や2011年の東北地方太平洋沖地震において、長周期地震動によって引き起こされた石油タンクの火災や、震源から離れた場所に位置する高層建物での被害が注目されました。これらの地震で得られた記録などから長周期地震動に関する知見が深まったことで、免震建物において長周期地震動作用時に免震層の水平クリアランス※2を超える過大な水平変位が生じ、建物を囲う擁壁に衝突する恐れがあることが判明したことから、その対策が求められています。
※2 地震時に生じる水平変位により、建物と擁壁が接触しないように設けられた隙間。
従来型ダンパーを増設して減衰性能(地震のエネルギーを吸収し揺れを小さくする性能)を高めるなどの方法がありますが、この場合、免震性能が低下し、上部構造に作用する地震力が大きくなってしまいます。そこで、免震性能を損ねることなく、免震層に過大な変位が生じることを防ぐVODを開発しました(図-1)。
【概要】
VODはユニフロー式※3のオイルダンパーにピストンロッドの変位によって作動する小形のシリンダを取り付けた機構を有し(図-2)、免震層に生じた水平変位に応じて減衰力が自動で無段階に※4切り替わります(図-3)。
※3 オイルダンパーの伸縮時に、筒内のオイルの流れる方向が変化しない方式。
※4 オイルダンパーの小形シリンダが動いた距離に比例して減衰力が切り替わる。
地震による揺れが続いている間は、性能変化により増加した減衰力を維持することで建物の水平変位を抑制し、地震が収まった後は増加した減衰力が自動で元の状態に戻ります。
VODの性能試験によって得られたデータを用いて解析的検討を行った結果、対象建物に設置されている従来型のダンパーをVODに取り替えた場合、上部構造に作用する最大地震力が従来型と同等に抑えられるとともに、長周期地震動作用時に免震層の最大水平変位が抑制されることを確認しました。
【今後の展開】
長周期地震動作用時に擁壁への衝突が危惧される既存の免震建物のほか、水平クリアランスを十分に確保できない狭小敷地における免震建物の建設にも本技術を適用していきます。
【本件に関するお問い合わせ先】
株式会社奥村組
技術研究所 建築研究グループ
小山 慶樹(こやま よしき)
TEL:029-865-1826
FAX:029-865-1522
E-mail:yoshiki.koyama@okumuragumi.jp