トップメッセージ

先人たちの思いを継承し
全てのステークホルダーとともに
未来づくりの歩みを進めます

「堅実経営」「誠実施工」が奥村組の信条
1907(明治40)年に創業の奥村組は、『「堅実経営」と「誠実施工」を信条に、社会から必要とされ続ける企業として、社業の発展を通じ広く社会に貢献する』という経営理念のもと、115年にわたって土木や建築などの事業を展開しています。
経営理念に掲げる2つの信条は、創業者である奥村太平の思いがもととなっています。太平は「お客さまに安心してお使いいただけるモノを納める」という信念のもと、当社グループの礎を築き、その思いが代々にわたり継承されてきました。
「堅実経営」については、我々の仕事は建設して終わりではなく、その後のメンテナンスや建て替えなど、長期にわたり建設会社としての責任を果たす必要があることから、まず第一に健全な経営を維持し、会社を存続させていかなければなりません。また、建設事業では、一時的な建設費用の立て替えが発生することから、一定規模の自己資本が必要になります。この点、当社は建設業界において、財務の健全性を示す自己資本比率がトップクラスであり、今後も健全な財務内容を維持しながら、収益力の向上を図っていく考えです。
「誠実施工」については、エピソードを一つ紹介します。1962(昭和37)年に奈良県庁舎建築工事を受注した際、奥村太平は社員に対して「県庁とはいわば奈良県における政府である。その建物の施工をやらせていただく以上は、『奥村組にやってもらって良かった、さすが立派にできあがった』と言ってもらえるように施工しなければならない」と訓示しています。現代では構造物の施工において、生コンクリートはポンプで高所へ圧送して打設しますが、当時はそうした技術がないため、クレーンで吊り上げ、作業員が手押し一輪車で運ぶという重労働の繰り返しでした。その際、太平は「とにかく誠心誠意、きれいなコンクリートを打つんだ」と現場で声をかけて回ったそうです。全工期を無事故無災害で完成させた同建物は、奥村組にとって初となる日本国内の優秀な建築作品を表彰する「建築業協会(BCS)賞」を受賞しており、建築から約60年が経過した現在も不具合なく庁舎としての機能を果たしています。
時代に先駆ける新しい技術への取り組み
奥村組は時代に先駆ける新しい技術の実用化にも挑んできました。現在では、国内トップレベルのトンネル技術や免震技術をはじめとする建設技術を有しており、将来に向けて、防災・減災や改修・リニューアル、循環型社会の構築に資する技術の開発なども進めています。
トンネル技術については、1965(昭和40)年に日本初の泥水式シールド工法「OCMS工法」を開発しました。同工法はシールド機を用いて切羽を密閉して掘進し、強力なポンプで泥水を還流させて掘削土砂を泥水と一緒にトンネル外に搬出するもので、当社が各地でシールド工事を手掛けるきっかけとなった工法であり、同工法の開発以降、数多くのシールド工事の実績を積み重ねてきました。また、免震技術については、1986(昭和61)年に日本初の実用免震ビルを完成させました。当時、地震による建物へのダメージを最小限に抑えられる免震構造に対しての世間の関心は高くありませんでしたが、同技術が求められる時代が必ず来るとの信念のもと、技術の向上に努めてきました。1995(平成7)年に発生した阪神・淡路大震災以降、同技術への関心が高まり、これまで免震のパイオニアとして数多くの免震建物を手掛けています。
- 社長方針
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経営理念のもと、社会の持続的な発展に貢献するために、社会のニーズの変化を見据えた事業・サービスを展開するとともに、ESG/SDGsに関わる取り組みを一体的に推進し、確かな技術と誠実な事業運営により社会の信頼に応え、成長し続ける企業グループを目指す。 そのビジョンの実現に向け策定した中期経営計画の目標達成のために、次の活動を推進する。
- 1. コンプライアンスの面では、法令順守の徹底を図るとともに、企業行動規範のもと、企業倫理に則った事業活動を推進する。
- 2. 安全衛生面では、進捗第一になりかねない施工を排し、「真の安全第一」を追求し、労働災害の撲滅を図るとともに、快適な職場環境を形成する。
- 3. 品質面では「顧客満足」「社会的信頼」の向上を目指し、品質管理を徹底するとともに、顧客のニーズに即した製品、技術、サービスを提供する。
- 4. 環境面では「人と地球に優しい環境の創造と保全」を目指し、環境汚染の予防、環境負荷の低減および環境の保全に取り組む。
- 5. 労働環境面では、ワーク・ライフ・バランスの実現を目指し、働き方改革の推進および心身の健康の保持増進を図る。
- 6. 統合マネジメントシステムの適確な運用ならびに継続的な改善により、事業活動にともなうリスクを管理し、業務を効果的かつ効率的に遂行する。
全役職員は、この方針に基づき、自らの果たすべき職務あるいは責任に即した目標を設定し、主体性をもって達成に向けて取り組む。
創業当時から社会課題に真摯に向き合ってきた歴史
奥村組は社会課題にも真摯に向き合ってきた歴史があります。もちろん、創業当時に今のようなSDGsという考え方はありませんでしたが、歴史を振り返ると、社会への貢献を意識した取り組みを見ることができます。
1955(昭和30)年のこと、地元の方々から大阪のシンボルである通天閣を再建しようという運動が起こりましたが、工事資金の不足や施工を引き受ける建設会社がないなどの問題で、再建計画は難航しました。そのような中、当社に声が掛かり、社内では受注に反対する声もあったようですが、奥村太平が「奥村組がなくなっても、通天閣は残る」と反対派の幹部を説得し、最終的には工事価格を大幅にディスカウントするなどにより建設を成し遂げたそうです。このような「社会に貢献する、世のため人のためになる」という思いは、今でも変わることなく先人から継承されています。
いかなる時にあっても社会インフラを守り続ける使命
現在、公共投資は「防災・減災、国土強靱化のための5か年加速化対策」などの政策が実施されており、これら政策に係る工事は今後も継続的に発注されることが見込まれます。
防災・減災、国土強靭化関連ではこれまでもさまざまな施工に取り組んできましたが、日本は地震や豪雨などの自然災害が多く、人々の暮らしの安全安心を守るためには、復旧、復興工事はもちろんのこと、防災・減災の観点から対策工事を行うなど常に先手を打つ必要があります。そのため国へは業界をあげて継続的かつ必要な発注を働きかけています。また、建設事業者は、これら自然災害に対して、即座に対応できるよう日頃から備えなければなりません。当社においても有事の際には、直ちに対応できる体制を整えています。
災害対策に加え、社会インフラの更新、長寿命化が大きな課題となっています。今後は、社会インフラの新設だけでなく、既設構造物を維持していくということも建設業の重要な使命であると考えます。既設構造物のリニューアル工事には、長期間劣化しない補修用材料の選定や高品質な施工などが必要であり、こうした点においても奥村組の強みを発揮していきます。
「2030年に向けたビジョン」の実現に向け、新たな中期経営計画をスタート
当社グループは、2019年4月に将来のありたい姿を示す「2030年に向けたビジョン」を策定し、長期的な観点から経営に取り組んでいます。同ビジョンの実現に向けた目標や事業戦略の基本方針等を定めたものが中期経営計画(以下、中計)であり、第1のステップであった2019~2021年度の前中計では、売上高は、建設投資が一定の底堅さを維持し、手持ち工事が順調に進捗したことなどから、目標をおおむね達成しましたが、営業利益および経常利益については、受注競争の激化や鋼材をはじめとする資材価格の高騰が進むなど、事業環境が厳しさを増し、目標は未達となっています。一方、ROEについては、政策保有株式の縮減や自己株式の取得などにより目標を達成しており、今後も引き続き資本効率を重視した経営を推進する考えです。
こうした結果を踏まえ、第2のステップである2022~2024年度の新たな中計では、「企業価値の向上」、「事業領域の拡大」、「人的資源の活用」という前中計で掲げた3つの事業戦略の基本方針を踏襲しつつ、さらに深化させていくこと、またその他経営上の課題に素早く対応することにより、「2030年に向けたビジョン」の実現に向けた成果を出していきたいと考えています。
中期経営計画(2022~2024年度)における事業戦略の推進

新たな中計における事業戦略の基本方針の1つ目には、「企業価値の向上」を掲げています。具体的には、「生産性の向上」、「技術優位性の向上」、「ESG/SDGsへの取り組み強化」に重点的に取り組み、売上高や収益力、資本効率の向上はもとより、地域社会への貢献など数値化できない取り組みも進めていきます。
「生産性の向上」については、BIM/CIM※の活用推進など新たな技術の導入、開発に向けた取り組みを加速しています。BIM/CIMを用いるとさまざまなシミュレーションが可能となることから生産プロセスを効率化することができます。また、発注者に工事内容をスムーズに理解いただくことができ、設計や仕様等の意思決定の迅速化が期待できます。設計等の決定が遅れると、工期への影響も大きいため、そういう点でもBIM/CIMによるメリットは大きいと考えます。
奥村組は鉄道やトンネル工事など、建設会社毎に各工区が分割発注される工事において、発注者から技術力を評価され「難易度が高い要となる工区はぜひ奥村組にやってもらいたい」と言っていただくことがよくあります。今後も発注者からの期待に応えるとともに、さらなる技術力の向上に努め、企業価値の向上に取り組んでいきます。
事業戦略の基本方針の2つ目には、「事業領域の拡大」を掲げています。当社グループの主たる事業である建設事業は外部環境の影響を受けやすいことから、不動産事業のほか、ESG/SDGsも意識した新規事業に重点的に取り組み、土木と建築に並ぶ安定的な収益源となる第3の柱に育てることで、経営をより強固にしたいと考えています。
現在取り組んでいる新規事業の中心となるものが、バイオマス発電事業です。北海道石狩市では、海外から輸入する木質ペレット、PKS(パーム椰子殻)を燃料とし、福島県石川郡平田村では、福島県および近隣県の林地で発生する間伐材等の木質チップを燃料として、それぞれ年間約36万MWh(一般家庭の約12.1万世帯分に相当)、年間約2.9万MWh(一般家庭の約1万世帯分に相当)の発電を想定しています。環境負荷が低いバイオマス発電など再生可能エネルギーを活用した事業の推進により、カーボンニュートラルや持続可能な社会の実現に貢献していきます。
また、長野県北佐久郡軽井沢町において、夏秋いちごの栽培を地元企業と協同で手掛けており、今後、さらなる事業規模の拡大を目指しているほか、フグの陸上養殖の事業化に向けた実証実験を進めるなど、食料問題の改善や地域の活性化などに寄与する取り組みも進めています。
事業戦略の基本方針の3つ目には、「人的資源の活用」を掲げています。事業活動を進めるのは「人」であり、ビジョンにある「人を活かし、人を大切にする」ことは、会社の成長に欠くことのできないものです。
建設業では労働時間の上限規制が2024年4月から適用されることもあり、所定外労働時間の削減は喫緊の課題であることから、現在、業務の体制や方法を抜本的に見直す取り組みや、コロナ禍のリモートワークで顕在化した社内システム等の問題点を改善する取り組みなど、働き方改革を進めているところです。
また、多様な人材が活躍できるよう従来の土木系、建築系、事務系といった括りにとらわれず、新たな事業展開など幅広い観点からの人材採用も進めます。5年前から放映を開始したテレビCM「建設LOVE!奥村くみ」シリーズは、多方面から反響をいただいており、優秀な人材の確保にも大きな効果があると感じています。
「人的資源の活用」は、社内だけでなく、社外の方々に対する視点も大切です。建設という仕事は発注者をはじめ、設計事務所、協力会社、近隣の方々など多数の協力をいただいてはじめて成し遂げることができます。それら全てのステークホルダーの皆さまが満足できるよう、価値観を共有できる関係性を構築し、ともに事業を推進していきます。
直近の事業環境は新型コロナウイルス感染症の影響が長期化するなど不透明感が強く、建設業界においては鋼材をはじめとする資材価格の高騰が続くなど、厳しい状況にありますが、私たち奥村組グループはエッセンシャルワーカーとしての使命をしっかりと果たし、これからも皆さまから必要とされ続ける企業であるために事業を展開していきます。引き続き皆さまのご支援を賜りますよう心よりお願い申しあげます。
※BIM/CIM…Building/Construction Information Modeling, Managementの略称。建設事業の調査設計、施工、維持管理の各段階で発生する必要な情報について、データモデルを介して連携させることで、建設生産システム全体の効率化を図るもの