「梅田に奥村組あり!」
かつてない難工事に挑んだ
「阪神梅田プロジェクト」

PROJECT / 土木

阪神梅田プロジェクト

大阪に本社を置くゼネコンとして、“大阪の顔”である梅田周辺の駅を手がけることは、奥村組の長年の悲願でもあった。競合との厳しい闘いを経て、勝ち取った。大阪駅前で工事中の「奥村組」のロゴを見れば、全職員が誇らしさで胸が熱くなる。一方、それを任された技術者たちにとっては、梅田という独特の土地柄が持つ地盤との闘いでもあった。

OVERVIEW
現・阪神大阪梅田駅地下躯体の北側に上下2層の箱型断面躯体(地下2層・幅15m、全長250m)を構築し、大阪メトロ・梅田駅と西梅田駅を結ぶ「東西地下道(都市計画道路大阪駅前1号線・地下1階、延長220m)」および、阪神大阪梅田駅(地下2階、ホーム・軌道)の拡幅工事を担うプロジェクト。地下道は最大1.3万人/時、阪神大阪梅田駅は16万人/日の乗降客が利用する大阪の玄関口であり、その周辺は西日本最大の商業地である。工事は2015年2月に着工し、2020年10月に北側の躯体拡幅工事が完了。今後、阪神大阪梅田駅のホームの拡幅・延伸、配線変更、可動式ホーム柵の設置、昇降設備の整備、駅務室や駅施設の美装化を行い完了する予定。

TEAM MEMBER

※所属部署はインタビュー取材当時のものです。

阪神梅田鉄道プロジェクト チームメンバー阪神梅田鉄道プロジェクト チームメンバー

STORY - 1

危機一髪を救った。
土木屋ひと筋30年の経験値と観察眼

「U.Y.!ちょっと見てくれ! 水が下がらないぞ!」
土留壁・遮水壁の施工が完了した東西地下道のある区画で所長のM.R.が声をあげた。
慌てて機械主任のU.Y.が駆けつける。地下水の観測井戸を確認すると、確かにM.R.の言ったとおりだ。
「本当だ。地下水の量が増えてますね。」

12mを掘り下げる開削工事には今回、SMW工法が採用された。地中深く36mに位置する遮水層(洪積粘土層)まで、ソイル(土とセメント)の壁を造成する工法だ。ソイルの柱を連続して並べて遮水壁を築くのが大きな特徴だ。その壁に欠損などが生じて連続性が保たれないと、そこから出水し、陥没や地盤沈下などの災害につながってしまう。
遮水壁で囲われた中の水位が下がらない。これは遮水壁あるいは遮水層の位置に問題があることを意味していた。
最悪のケースがM.R.の頭をよぎる。

大阪・梅田の地名は、沼地を埋め立てて田んぼにした「埋め田」に由来する。地盤の中で帯水された地下水の水位が高いためにこの土地は出水しやすく、過去には掘削工事による出水事故が何度も起きている。こうした事態を想定して異常がないか常に目を光らせていたからこそ早期に対処でき大きな惨事を免れることができた。M.R.の鋭い観察眼による早期発見が不幸中の幸いであった。

まずは原因究明が必要だ。M.R.はU.Y.に遮水壁の欠損部の特定と、再度の地質調査を指示した。時間とお金がかかることは明白。しかし、“安全に妥協があってはならない”。M.R.は所長としてリスク管理に絶対の責任を持って臨んだ。
「工期が延びるぞ・・・。」
工程管理を仕切っていた副所長のY.T.もすぐに動いた。発注者への説明と協力業者の施工体制の組み直しを迅速に行わなければならない。どこかで工程が延びても、違うどこかで埋め合わせをして帳尻は合わせる。それが業界の掟だった。

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STORY - 2

難易度の高い開削工事
奥村組は対応できるのか。

「こんなん、できるわけないやろ!」 U.Y.はプロジェクトへの配属を聞いた瞬間、思わず弱音を吐いた。
開削工事の経験はあったが、梅田は単純に掘削して終わりという土地ではない事を知っているからだ。
隣接する大阪神ビルディング、新阪急ビルが建替え中であり、ほかにも既設の構造物がひしめき合う。さらに地中には過去の施工図面にも記されない数十年前に埋め込まれた水道管、ガス管などが残存している。“難工事”は端からわかっている。
「大阪・梅田でひと旗あげたい」。奥村組の一員として、その気持ちも痛いほどわかるが、本当に出来るのか? 出水事故が懸念される掘削工事は機械主任であるU.Y.がキーパーソンになる。その覚悟が必要だった。

「このプロジェクトに配属されるからには絶対に出水事故は起こさない」。U.Y.は固く誓った。
そこでまず、当初の仮設計画を一から見直すことからスタートした。そして、自身の経験値を駆使してベストだと思われる綿密な計画を立てた。
しかし、それでも“地中のことは掘ってみなければわからない”のが土木工事の“現実”だ。

想定していたシナリオではあるものの、目の前で起こった出水の危機。U.Y.は迅速な対応を迫られた。
「欠損部分はどこだ?」。M.R.の指示のもと、U.Y.は施工時の管理記録をチェックしつつ遮水壁背面にボーリング調査を行うことにした。下端の地質を調べたが、以前調査した結果とほぼ同じであった。背面に設置している地下水を感知する計器が反応したため、おおよその欠損部分の見当を付けることはできたが、まだピンポイントで「ここだ」とは断定できない。
地盤を固める薬液を注入するにしても、当てずっぽうというわけにはいかない。欠損箇所も1箇所とは限らない。「一旦、埋め戻して遮水壁を再度構築するしかないのか…」そんな選択肢も頭をよぎる。そうなれば、工期の遅れは取り返しがつかなくなるかもしれない。

再度井戸の揚水試験を実施し、その結果をもとに、「ここぞ」という箇所を見極め、高圧噴射攪拌工法による地盤改良を行った。
「頼む、止まってくれ。」
祈るような気持ちで見守った揚水試験で、地下水の量が安定したことを確認した時は、全員が安堵して胸を撫で下ろした。

しかし、対策工事に1ヶ月。その後の施工に1ヶ月。工程は、当初から合わせて2ヶ月遅れることとなった。

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STORY - 3

2ヶ月遅れた工程を取り戻す。
躯体工事を知り尽くした技術者の工程管理力

2ヶ月遅れた工程を取り戻す。
躯体工事を知り尽くした
技術者の工程管理力

「見えない敵との戦いだな。」
Y.T.は心の中でそう思っていた。Y.T.も開削工事の豊富な経験があり、監理技術者としてプロジェクトに抜擢された一人だ。
大きなプロジェクトではいくつもの工種を複雑に組み合わせながら、長期の工程を計画する。計画の全体像を見ると圧倒され、Y.T.は弱気になっていた。「ここまで大きなプロジェクトの工程管理を自分が担えるのかな」。

工程計画を大きく左右する要素の一つに施工計画の段階ではわからない地中障害物の存在がある。不明な地中障害物が出るたび、埋設に関わったであろう全ての業者を調べ、該当業者が判明すればすぐに撤去を依頼するが、該当業者が見つからない場合、記録がなく、調べることが不可能であることを確認するまでは自分たちで勝手に撤去することは許されない。調査している間は数日にわたり工事がストップすることも珍しくない。
Y.T.は誰よりも工程を先読みして、小さなスケジュールの変更から施工方法の再検討までを担っていた。しかし、今回のような遮水壁の欠損部分は地中障害物とは少しスケールが違う。遮水壁の欠損箇所が特定され、地盤が固まるまでの期間は果たして数週間なのか、数ヶ月なのか、なかなか読めない。
そのため、先に手を付けられる部分に工程を組み替え、いつ工事を再開してもいいように準備と手配に余念がなかった。結局、2ヶ月間、当初予定より遅れたが、期日はほんの数日延長してもらえただけ。地下道は既に開通日が決まっており、納期は死守するしかない。
しかしそこは土木工事で長年のキャリアを持つベテランのY.T.だ。この2ヶ月を冷静な対応力で挽回した。
最初はその規模感に圧倒され、プレッシャーに押し潰されそうだったが、無我夢中でやっていくと、全ては小さな計画が集合しているだけだと思えてきた。「今までやってきたことと同じ。結局は大きな計画も一つひとつを積み重ねていく地道な努力が報われる」。そう分かると大きな自信になった。

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STORY - 4

あの震災復旧経験があったから、
どんな小さなリスクも回避できた。

あの震災復旧経験があったから、
どんな小さなリスクも
回避できた。

今回の一番の功労者はやはり、早い段階で異状を察知したM.R.の土木屋としての観察眼だ。気づかず開削を進めていたら、梅田駅前の地下街に多大な被害を及ぼした可能性があったという。
「所長の危険察知能力と危機管理能力の高さには本当に舌を巻きます。我々が想定していないようなことも次々に、あれはどうだ、あそこは確認したかと細かな指示が飛びます。だから、どんなに小さなリスクも見逃さないのです。」(U.Y.)

M.R.は阪神淡路大震災で、震災復旧工事に携わった一人だ。
「当時は大型構造物があそこまで破壊されるとは、誰も思っていなかった」とM.R.は目に焼き付けられた光景を思い出す。あれはまさに、土木屋が自然という強大な敵から叩きつけられた挑戦状だった。
インフラ整備の重要性が身にしみると同時に、復旧作業は自分たちにしかできない特別な使命であることも実感した。余震が続く恐怖の中、そして責任と誇りを持って自然災害からの復旧に全力を尽くしたからこそ、M.R.には人一倍、安全と安心に対する強い思い入れがある。
「別に私に超能力があるわけではありません。建設業でいう“危険予知活動”により、常に誰も想定しないところまで、あらゆるリスクを想定する癖がついているだけ。日々現場をくまなく巡視していると、『昨日と“土の顔色”が違う』ということもすぐ分かる」とM.R.は笑う。まさに自然に対して、「どこからでもかかってこい」という隙のない構えがM.R.にはあるだけなのだ。

「震災復旧工事といえば今も、『あの六甲道の奥村組さんね』と言われます。私は当時大学生でしたが、あの実績は非常に誇らしく、M.R.所長たち先輩方の心意気にはとても胸が熱くなります。私自身はまだまだ諸先輩方のレベルには至っていませんが、プロジェクトの一端を担うことで、“いつ何が起こるか分からないリスク”と柔軟に向き合いながら、そのスピリッツを実感できた経験は大きい」とY.T.は振り返る。

そしてU.Y.は、日頃から「土を見ろ」と口癖のように言うM.R.の傍らで“早期発見”“危険予知”の大切さを学んだ。そして、そのリスクに対応できる全ての準備を整え、M.R.の期待に応えた。どんなに先が見えなくても、安全性を度外視した無理な施工を行ってはならない。「ここで逃げない強さを身につけた」と語った。

長期にわたる大プロジェクト。
長年の夢、
「梅田に奥村組あり」を実現
大きな災害を回避した遮水壁の欠損問題も、長期にわたるプロジェクトの中ではほんの一部の出来事でしかない。うまく地盤が固まったところで祝杯をあげるわけでもなく、工事は粛々と進み、2020年10月、北側の躯体拡幅工事は無事完了した。
阪神大阪梅田駅は駅空間が幅員15m拡幅され、間もなく新たな1番線ホームに電車が入る予定。その後、阪神大阪梅田駅全てのホームを美装化し、地上の道路復旧整備を行い完了となる。
「多くの人が行き交うホーム、地下道を目の当たりにして、初めて大きな達成感が込み上げてくるはずです。最後まで気を引き締めて、無事故・無災害を守り抜きます。そしてその時には祝杯を」とM.R.。
大手ゼネコンの独壇場となり、なかなか土木事業での工事受注が難しかった大阪・梅田地区。土木の精鋭メンバーを集め、高い技術力を武器に勝ち取ったプロジェクトである。
「梅田に奥村組あり」。この悲願の瞬間は、奥村組の新たな歴史の1ページに刻まれるだろう。

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